概念シラバスと機能シラバス(コミュニカティブ・アプローチ)
概念シラバスと機能シラバス
コミュニカティブ・アプローチという用語は、広義では、‘伝達能力の育成に重点を置く教授法’全体のことであるが、狭義では、1970年代にヨーロッパで開発された概念シラバス(notional syllabus)や機能シラバス(functional syllabus)による外国語教授法を指す場合もある。
シラバスとは、学習者に教える全ての教育項目の総まとめのことである。シラバスには、文法、音声、文字などから、その言語の背景になっている文化的・社会的知識までも含まれている。
1960年代、ヨーロッパでは語学教師や外国語学習者の間で、当時の外国語教授法に対する不満が高まっていた。
それは、その頃の標準的なテキストを使って、教授法の指示するとおりに教えても(学んでも)、満足できる成果が上がらなかったからである。
優秀な学生さえ、一生懸命学習しても、‘文法的に正確な文’を作れるようになるだけで、実際のコミュニケーションの場で意志を伝達することができない場合が多く、それが教育関係者のフラストレーションの種になっていた。
クラスでの活動では非の打ちどころのない学生が、実際の場では意志伝達ができないというのは、クラスでの授業に‘何か’が欠けていて、そのために本当の伝達能力が育たないのだという結論に達し、その‘何か’を求める研究が始められたのである。
まず明らかにされたのは、当時ヨーロッパでも盛んであったオーディオ・リンガル・メソッドの欠点だ。
オーディオ・リンガル・メソッドでは、教師の与える‘刺激’に学習者が‘反応’する方法で文型の定着を図る、といったやり方で、言語構造を習得させていたので、学習者たちは正しい文を作れるようにはなるが、教師から使用文型についての指示やキューが与えられない場合には、文の創出が難しい、ということである。
構造が教えられて、それを正確に再現する練習は十分に行われていたが、それを‘どんな場面’で‘どう’使うかが指導されていなかったことが原因だと言えるわけである。
そうした事実を踏まえた上で、最初に検討されたのが、教育の内容を決めるシラバスだった。
その当時のシラバスは、文法構造の教授に主眼が置かれていたので、文法や文型を順次体系的に学習するには向いていたが、言語の使用場面を考慮した‘言語使用’の面や‘意味’の面は考慮されていなかった。
そこで‘言語使用’や‘意味’のためのシラバスの可能性が検討されることになった。
1971年、ヨーロッパ協議会(Council of Europe)は、参加各国の言語を教えるのに適した言語教授法の開発をめざして、その研究を専門家チームに依頼した。
この時のメンバーの一人にイギリスの言語学者ウイルキンス(D.A.Wilkins)がいて、「ヨーロッパで働く成人学習者が意志の伝達に必要な項目(シラバス)とその基準の作成」を担当した。
1972年、ウイルキンスは、ヨーロッパ協議会へ報告書を提出したが、その報告の中で、伝達能力を育てる言語教育のためには、従来の文法シラバス(grammatical syllabus)ではなく、‘意味’や‘言語使用’の項目を集めた新しいシラバスが必要であると提案した。
この提案から後に、概念シラバス・機能シラバスが生まれ、コミュニカティブ・アプローチの教材開発、教授計画作りに貢献することになった。
ウイルキンスは、当初シラバスの作成に当たって、‘意味’と‘言語使用’の二つの範疇を設けようとしていた。
そして‘意味’の方を、文法の面も考慮に入れたものとして、厳密な定義付けのために‘意味・文法範疇’と名付けたが、これは、‘ある概念’を表す範疇を示し、‘頻度’とか‘時制と時間’とか‘動作’などがそれぞれの項目をなしている。
‘意味・文法範疇’に属するこれらの項目を‘概念シラバス’という。
例えば、‘頻度’について見てみよう。頻度についての表現は、英語の場合には、‘never’から‘always’までの間にいろいろな段階があり、‘seldom’‘sometimes’‘often’などがそれぞれの段階を表現している。
これは英語以外のどの言語でも同様の表現があるものであり、従って、この‘頻度’を一つの範疇として捉え、一括して教えることも効果的な教授手段となると考えられる。
このように、意味・文法の面で一つの範疇としてまとめられるものを‘概念シラバス’の項目として扱っているのである。
これに対して‘言語使用’の方は、‘伝達機能範疇’と名付けた。
これは、‘伝達機能’を表す範疇を示し、‘許可を求める’とか‘勧誘する’とか‘同意する’とか‘主張する’などがそれぞれの項目をなしている。
このような伝達機能の範疇によって作られたシラバスを‘機能シラバス’と呼んでいる。
(원문)
http://akapy2772.seesaa.net/article/418653627.html
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